#memorandums

日々の備忘録。言語学の事、趣味の事、色々。

*[言語学] サピア・ウォーフの仮説⇔生成文法理論

フォロワーさん(後輩、1つ下)が偶然言及していてふと思い出したのでメモメモ。
昨年の社会言語学講義で取り上げられました。
チョムスキーやピンカー派の先輩がこの話題の時に渋い顔をしていたのを思い出します。

-サピア・ウォーフの仮説(言語相対性仮説、Sapir-Whorf hypothesis、SWH)

 言語がその人の思考、世界観を支配しているという仮説。
アメリカの言語学者エドワード・サピアとその弟子ベンジャミン・リー・ウォーフが唱えました。
有名なのは色の実験の話。「言語が思考を支配するなら、色の語彙が少ない言語を話す人たちは色彩感覚が劣っているのか?」というRQを基にして実験が行われましたが、語彙が無いだけで、“認知できていない”訳ではないので、この仮説を完全に支持できてはいないように思えます…。

- 生成文法(generative grammar)

 エイヴラム・ノーム・チョムスキーが提案した理論です。これは先ほどのサピア・ウォーフ仮説とは全く対照的なものです。
人間は生まれてからたった数年でおよそ1つの言語体系を得られますが、その理由として、全ての人間は特に脳に障害が無い限りは生得的に全ての言語の初期状態とされる“普遍文法(Universal Grammer, UG)”を備えているからだと主張します。
 この「人類皆共通の文法を持っている」という考え方で行くと、先ほどのサピア・ウォーフの仮説で主張された、言語が世界観を支配するということは真っ向から否定することになります。
(一応、この2つの間に立つ学問も存在します。認知言語学がそれです)


 有名なのは生成文法の方ですが、サピア・ウォーフの仮説(以下SWH)の方がもっと早く出ています。1957年、生成文法理論が展開されると言語学界では大きな反応を呼び、革命を齎したとされています。今もこの生成文法理論は根強い人気を誇るようです。そんななか、当然ですが対極の存在であるSWHはどんどん注目を浴びなくなっていきます…。


 しかし近年、とある言語学者の研究が大きな波乱を呼びます。名前はダニエル・エヴェレット。彼はブラジルのアマゾナス州に住む「ピダハン族」の言語である「ピダハン語」について、数十年間一緒に村で生活し、研究してきました。その結果、チョムスキー派を驚かせるようなデータが得られました。

ここがヘンだよピダハン語

 + ピダハン語には数,色,数量詞が存在しない。
  →ピダハン族はそれまで商品取引で騙されてきたために、エヴェレットが8か月間四則計算などの基礎的な数的処理について熱心に教えたものの結果は実らず、最終的に1+1や10まで数えることすらできずに、ピダハン族は勉強を投げ出してしまったという。
 + 現在知られている限りでは最も少ない音素体系を持つ。
 + 口笛や鼻歌にできる。さらにそれを暗号化することが可能。
 + 左手、右手という語彙が存在しない。それらを表す時は川の位置を使う。
 + 文章が再帰できない。
 + 修飾語は一つまで。 ...etc.


などなど、色々特徴的な所があります。特に1番始めの数についての云々は、「数を表す言葉が、正確な数量という概念を生む」というウォーフの強い主張と重なる所がありますね。しかし、国立インディオ財団が立ち入りを厳しく制限しているため、今後の進展には時間がかかりそうです。いずれにせよ、チョムキー派であれ、SWH派であれ、この言語に注目して間違いは無さそうです。